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イデアルを整数について考える

数学
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可換環の復習

可換環は、可換加法群かつ可換乗法群(すなわち、可換群)の条件から、乗法についての逆元存在が不要で、分配律は必要、という条件であった。

イデアル

ここで、可換環Rの空でない部分集合Iを考える。

もし、任意の元a,bについて、

<条件その1>a+bが必ずIの元になっており、

<条件その2>可換環Rの任意の元rと、部分集合Iの任意の元aとの積が、必ずIの元になっているのであれば、

Iをイデアルとよぶことにしましょう。

ここまでが定義です。

実際、可換環は、加法について任意の元は必ず逆元をもっており、かつ乗法についての単位元1が存在することも定義されています。

すなわち、可換環は必ず元として1を含み、この1は加法にも使われるので、必ず逆元(和が加法の零元0になる)として-1を元に含んでいます。

ということは、イデアルの条件その2から、可換環Rの任意の元と、イデアルの任意の元の積は、やはりイデアルの元であるのだから、

a,bがイデアルの元であるとき、-1(イデアルは部分集合なので、-1が可換環Rの元であっても、もちろん-1がイデアルの元だとは限りません。)と元bとの積、すなわち-bは、イデアルの元になっています。

ということで、イデアルの条件その1から、イデアルの元a,-bの和はやはりイデアルの元なので、結局、a-bもイデアルの元ということになります。

イデアルは加法群であり、加法について閉じている

イデアルは、もちろん、イデアルは可換環の部分集合ですので、加法に関して、結合律と可換律が成り立っています。

また、確認すれば容易にわかることですが、イデアルは、加法に関して、零元をもちます(例えば、a-a=0∈Iです)。また、加法に関して、任意の元が逆元をもちます(a*-1=-a∈Iです)。

すなわち、加法に関しては、イデアルはRの部分「群」になっています(群の定義は、加法に関しては、環と同じ条件で、結合律、零元、逆元、可換律です)。

さらに、この状況から、「イデアルは加法に関して閉じている(a+b∈Iです)」ことがわかります。

イデアルは環ではなく、非単位的環である(が、文献によって、混乱するおそれがあるので注意)

なお、乗法についてはどうなるでしょうか。可換環の条件から、乗法に関しては、結合律、単位元1、可換律、加法と乗法についての分配律が成立します。イデアルについても、結合律、可換律、分配律はもちろん成立します。しかし、イデアルは加法の零元は必ず含みますが、乗法の単位元1を必ず含むとは限りません。

ということで、イデアルは環ではありません。

非単位的環(別名:擬環)

ところが、紛らわしいことに、環の条件のうち、乗法の単位元についてのみ、条件を満たさないものを、非単位的環とよんでいる(擬環ともいう)のですが、困ったことに、非単位的環のことを、環として取り扱っている文献もしばしば見かけます。本HPでは、非単位的環として明示することで統一していきますので、混乱されないよう、お願いいたします。どちらが正しいかどうかは、数学者の議論を待ちましょう。

さて、イデアルとなるような部分集合にはどのようなものがあるかを考えていきます。

環上の加群

復習ですが、可換環は必ず加法については群、すなわち、加法群です。乗法については群とは限りませんし、群となることもあります。

言い換えれば、乗法についての逆元は可換環の条件に入っていないので、乗法についての逆元がある場合とない場合があります。ただ、乗法群の条件を満たした環を、あえて環ということは少なく、乗法群と言うでしょう。例えば、自然数1は整数でも有理数でも実数でも複素数でもありますが、わざわざ複素数1とか、有理数1とか言うことは少ないでしょう。

さて、可換環Rの任意の元rについて、加法群Mの元rmが1対1対応している場合、(すなわち、1つの元につき1つの元が対応していることになり、位数は同じということになります。)

下記の性質をもつとき、MをR上の加群だとか、R-加群と表記することにしましょう。a,b∈R、x,y∈Mとして、

性質1:a(x+y)=ax+ay

性質2:(a+b)x=ax+bx

性質3:(ab)x=a(bx)

性質4:1x=x

とします。普通に成立しそうな関係ですが、すなわち、Rの元とR-加群の元とは、安全に、分配法則や結合法則が成立しているということです。

イデアルはR-加群である

もちろん、イデアルは可換環Rの部分集合なので、自明にR-加群です。

最小のイデアルとは

可換環Rが元r1,r2,   rnを含んでおり、

そのイデアルIの条件を、「元a1,a2…anを含んでいること」とします。

そのとき、他の元はどうなっているのかを考えます。

なお、イデアルは部分集合なので、様々な種類の、すなわち、様々な大きさ(元の数:位数)のイデアルが存在します。

さて、この条件が与えられたイデアルについて、イデアルの定義から、r1*a1,r2*a1,…rn*a1はすべてイデアルの元となっています。もちろん、r1*a2なども同様にイデアルの元です。

さらに言えば、a1+a2や、a1+a2+a3もイデアルの元です。

もっと言えば、r1a1+r2a2などもイデアルの元です。

いずれにせよ、r1*a1+r2*a2+…rn*anは、「元a1,a2…anを含んでいること」という条件のイデアルの元です。

ri(i=1,2,…n)は可換環Rの任意の元なのだから、上に書いた、r1a1などというのは、r2~rnがすべて0(可換環なので必ず零元をもつ)のときの例でしかありません。

ここで、確認ですが、集合{r1*a1+r2*a2+…rn*an | ri∈R, ai∈I}は、イデアルIです。

提ですが、aiは定まったもので、riは任意にRから選んでこれるものです。

可換環Rが整数集合である場合は、簡単に想像できます。aiの係数を適当に選んでやれば、任意の元の和がやはりイデアルの元になっています。

そして、やはりr1*a1+r2*a2+…rn*anのri倍は、結局、aiの係数を適当に選んでやれば、イデアルの元になっているということで、集合{r1*a1+r2*a2+…rn*an | ri∈R, ai∈I}は、イデアルです。

ここから、最小のイデアルを考えていきます。

とあるイデアルIの元が、a1,a2,…anを含んでいたとしましょう。

結論から言えば、集合{r1*a1+r2*a2+…rn*an | ri∈R, ai∈I}が、元a1,a2,…anを含む最小のイデアルです。

考えてみましょう。