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分数関数の微分

数学
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分数関数の微分

多項式環R[X]は必ずしも整域ではありません。

整域でなければ(0以外の零因子をもちうる)、商体が定義できないことがあります。

たとえば、0でない元A,Bについて、C/ABと定義しても、AB=0となることがありえます。

整域においては、分母の元がそれぞれ0でなければ、その積も0になりえないため、商体が定義できます。

さて、多項式環R[X]が体であったとすれば、その商体をR(X)と書くことにしましょう。そして、それをR上の有理関数体とよぶことにしましょう。

商体とは

分母および分子をR[X]の元からあらゆる組み合わせ(分母≠0)で選んだ分数の集合、元をf(X)およびg(X)で示して、

Fracture(分割されたパズルピース)の英単語から

Frac(R[X])=f(X)/g(X)と表すことにしましょう。f(X)を単純にfと表してよいこととし、fもgもあらゆる元をとりうるので、番号を自由にふって、f1、g1などと表現してよいこととしましょう(大きさの順位などは特に指定しないが、必ず各々異なる元ということにしましょう。もちろん、f1=g6などということもアリにしましょう。)

ここで、同値関係∽を考えます。(約分における、2/4=1/2を考えたいわけです)

f1/g1∽f2/g2などと示すこととし、

同値関係にある元の組み合わせを、同値類とよびましょう。

たとえば、同値類の集合は、{f3/g5, f4/g8} {f1/g2, f9/g3}などとなっていて、

これはわかりやすく書けば、{3/6, 12/24} {1/2, 5/10}などとなっているわけです。

その同値類の集合はFrac(R[X])/∽とかけることにしましょう。

そして、その集合こそが、商体R(X)であって、R上の有理関数体です。

さて、ある元fはf/1とも表現できる(体は乗法的単位元1を必ず含んでいます。これを強調したいがために、体は”単位的”環の一種である、ということもあります。)ので、f⊂商体R(X)です。

任意の元であるから、R[X]⊂R(X)となります。

さて、任意の元について、

分数を定義することはできましたが、その加法と乗法は、環についてはもちろん、体においても、当たり前に定義されているわけではありませんので、わざわざ定義しなければなりません。

f(X)/g(X)+r(X)/s(X)={f(X)s(X)+g(X)r(X)} / {g(X)s(X)}と定義しても良いことにして、乗法について、

{f(X)/g(X)} * {r(X)s(X)} = {f(X)r(X)} / {g(X)s(X)}と定義できることにしましょう。

有理関数体R(X)(すなわち、商体R(X))の導関数(導関数を求める行為が微分)の定義について考える

{f(X)/g(X)}’すなわち(f/g)’を定義してよいこととします。

その値を調べてみると、導関数の定義より、

f(X+h)/g(X+h)における、hの1次の項の係数が(f/g)’の気がします

ところが、例えば、f=1, g=Xだと、(1/X)’となって、

f(X+h)/g(X+h)=1/(X+h)となり、hの1次の項が存在しません。

ですので、ここではf(X)のXの次数がg(X)のXの次数より等しいか大きいとしましょう。(XにX+hを代入するので、Xの次数はhの次数と一致するので、結局hの次数についてもf(X+h)がg(X+h)より等しいか大きいことになります。)

さて、f(X+h)/g(X+h)は、例えば、f,gのXの次数が3,2だとして、

(5(X+h)^3+(X+h)^2+4) / ((X+h)^2)などであれば、

計算すると5(X+h)+1+4/(X+h)^2となります。

結局、分数がまぎれこんできて、直感的に、うまくいきません。

というのも、根本的な話として、hの1次の項の係数という考え方を推し進めると、(1/X)’が定義できなくなってしまいます。

あえて定義するなら、こういった形はすべて0とする手もありますが、それではあまりに雑な理論になります。

結論からいえば、hの1次の項の係数という考え方そのものは正しいのですが、1/Xなどの導関数を定義するためには、「極限」という概念を受け入れなければなりません。

X^2とかX^3などであれば、その導関数には、実質的には「極限」的な考えを導入しているのですが、その証明に極限は必要ありませんでした。ところが、1/XすなわちX^-1などになると、極限を導入しなければなりません。分数関数の導関数は、そもそもhの1次の項の係数という定義だけでは十分に定義されないので、定義を作らなければならないわけです。

有理関数体R(X)の導関数を定義する

結論としては、(f/g)’={f’g-fg’} / {g*g}と定義します。

ちなみに、{f’g-fg’} / {g*g}のように分数として表現したりの四則演算をして良い根拠ですが、まず、加法の結合法則が成り立ちます(なお、可換環においては、分数については、分母分子が元であっても、分数が元になっている例は少ない(だいたい二項演算について閉じていない)ことから、特別に定義されていません)。そして、あらゆる元が、かならず乗法において可逆である「体」については、分数、すなわち割り算(除算)が定義できるので、分数どうしの加法、乗法が定義できます。

(f/g)’={f’g-fg’} / {g*g}

これを示すには、導関数の定義として「極限」を持ち込むと楽です。別記事です。

体の特徴

ここで、体を考えます。

体とは、環のうち、任意の非零元が乗法逆元をもつものをいいます。よって、0以外はすべて単元という、環よりもかなり制限のきつい集合です。整数は、体ではありません。

とはいえ、実数、複素数、有理数の集合は体になっているので、我々が良く知る数学の世界は、体の中で議論されていることが多いようです。

体の最たる特徴は、割り算(除法)が定義しやすいことです。

もちろん、体でなくとも、例えば整数集合ℤは体ではありませんが可換環ですので、割り算ができることもあります。

しかし、多くの場合、割り算の結果の値が、元として含まれていません。

可換環(というより、代数的構造全般)の前提として、二項演算について閉じていることを要求する流派が多いので、

整数集合においては、除法を定義できないことはないものの(たとえば、その部分集合{1, -1}については、除法について閉じているので、演算が閉じているような部分集合を定義できることも、ごくまれにあります)、閉じているとは限らないので、非常に扱いづらい演算ということになります。

基本的な定義では、環=単位的環であるが・・・

なお、流派によっては、環という言い回しではなく、乗法的単位元を有していることを強調するため単位的環ということもあります。本HPでは、環といえば、単位的環を指します。

ややこしいですが、乗法的単位元とは、「単元」ではありません。単元と一致することもありますが、単元とは、何らかの乗法的可逆元を有している元、たとえば単元Eは、可逆元Fを有しており、EF=1(1は乗法的単位元)となるようなものです。もちろん、乗法的単位元は単元でもありますが、単元は必ずしも乗法的単位元ではありません。例えば、-1は単元ですが乗法的単位元ではありません。また、虚数√-1を認める環においては、√-1は、可逆元-√-1を有し、その積は1になるので単元ですが、もちろん乗法的単位元ではありません。