可逆元
単元とも。乗法に対する逆元をもつ元をいう。
直感的には、ある元aがあって、適当な元bを用いて
ab=e(単位元)という式が成立するなら、
元aは(右)可逆元ということになる。
乗法が可換でなければ、左可逆元、右可逆元の区別がある。
既約元
整域において、元pを考える。
pは0ではなく、
pは可逆元でもない。
pは2つの非可逆元の積ではない。
このとき、pは既約元とよばれる。
素元
可換環Rの元pを考える。
約束事として、
p|aという表現は、a=xpとなるxが存在するという意味である。
なお、pがaを割り切るという意味ともとれるが、割り切るというのは俗的な表現になりがちであって、抽象代数学においては、かえって混乱するかもしれない。
・pは0ではない。
・pは可逆元(単元ともいう)ではない。
・Rの任意の(あらゆる)元a,bに対して、p|abであるなら、必ずp|aまたはp|bである。
3つ目を言い換えれば、「ab=xpとなる元xが存在するなら、必ずa=ypとなる元yが存在するか、あるいはb=zpとなる元zが存在する。」
を満たせば、素元である。
素元と既約元は、上の2つのルールは同じである。
既約元:2つの非可逆元c,dの積ではない、ことと、
素元:任意の元a,bについて「ab=xpとなる元xが存在するなら、必ずa=ypとなる元yが存在するか、あるいはb=zpとなる元zが存在する。」ことが、
どのようにかかわっているのか。
結論として、「素元は必ず、既約元であるが、既約元は、必ずしも素元ではない(例外がある)」。対偶は真理値が等しいので、対偶を考える。すなわち、
対偶:「2つの非可逆元c,dの積ではない」ことはない、なら、「ab=xpとなる元xが存在するなら、必ずa=ypとなる元yが存在するか、あるいはb=zpとなる元zが存在する。」ことはない。
さて、元pが2つの非可逆元c,dの積であるなら、a,bはあらゆる元をとるので、それぞれc,dであった場合について、「「cd=xpとなる元xが存在するなら、必ずc=ypとなる元yが存在するか、あるいはd=zpとなる元zが存在する。」ことはない」ことを示せば、素元は必ず既約元であることを示せる。
当然元xは1であって存在する。ところが、c=ypとなる元yは存在しない。なぜなら、c=yp=ycdであり、1=ydとなるからである。yが1であったとしても、dはそもそも非可逆元であるから、いずれかの元との積が単位元1となることはない。同じく、d=zpとなる元zは存在しない。ということで、対偶を示せた。
素元は必ず既約元である。
さて、2つの非可逆元c,dの積ではない既約元pについて、
「任意の元a,bについて「ab=xpとなる元xが存在するなら、必ずa=ypとなる元yが存在するか、あるいはb=zpとなる元zが存在する。」」とは限らないわけである。どういうことかみていく。
これは単に、反例を示せばよい。しかし、少し反例を見つけるのが難しい。
整数環Zに、√-5という要素を追加した、「二次の代数体」である整数環Z[√-5]を考える。簡単に言えば、有理整数の世界に、√-5という要素を追加して、例えば、3+5√-5などの元が追加され、しかも、それは環としての性質を備えているような環である。
さて、例えば、有理整数3は、整数環Z[√-5]において既約元である。
この証明であるが、まず、任意のk=x+y√-5(kはZの元)のノルムを、Norum(k)=x2+5y2とする。
「3」が二次の代数体の整数環Z[√-5]において既約元でないと仮定すると、
ab=3を満たすような、abいずれか、あるいは両方が非可逆元であって、かつ、abいずれも単数ではない、ような元が存在する。
直感的には、3を「素数ではない」と仮定した感じである。その場合、abの片方が1ということはない。3が素数ではないのであれば、abは、1以外の何かの掛け算でなければならない。
さて、このとき、N(a)N(b)=N(ab)=N(3)=3^2=9であり、
abともに、いわゆるガウス整数であるから、そのノルムであるN(a)とN(b)は、当然、正の有理整数である(ガウス整数のノルムが非負の有理整数にならないことはありえない)。
さて、ノルムが1となる場合、そのようなガウス整数は、いわゆる「単数」とよばれるものであって、環論においては、単位元になるが、aもbも単位元ではない、ということであるから、N(a)もN(b)も1ではない。
N(a)=N(b)=3でしかありえない。ところが、
x2+5y2=3を満たすような有理整数x,yは存在しないため、矛盾している。
よって、仮定が間違っていた。
ということで、有理整数3は、整数環Z[√-5]において既約元である。
さて、有理整数3は整数環Z[√-5]において、素元であろうか?
任意の元a,bについて「ab=xpとなる元xが存在するなら、必ずa=ypとなる元yが存在するか、あるいはb=zpとなる元zが存在する。」というルールであった。
例えば、(2+√-5)(2-√-5)=9で、3の倍数であるが、
(2+√-5)(2-√-5)はいずれも3の倍数ではない。
ゆえに、有理整数3は整数環Z[√-5]において、素元ではない。
上のルールにあてはめるなら、aが2+√-5、bが2-√-5として読んでみるとよくわかる。
ちなみに、条件を厳しくした環においては、素元と既約元が一致する。
具体的には、一意分解聖域については一致する。
一意分解整域に含まれる、主イデアル整域、ユークリッド整域、体、有限体についても、もちろん、素元と既約元が一致する。
上記の例は二次体として√-5を含めた整数環であったが、もっと一般的に、ガウス整数全体を含んだガウス整数環については、加法と乗法について閉じていて、環であるだけでなく、実は、複素数「体」C、の部分環でもあるので、整域なのである。ということで、一意分解整域以外の整域については、既約元が必ずしも素元ではないが、素元は必ず、既約元である。
ガウス整数
虚数単位を用いたこのような数をガウス整数と呼ぶが、
ガウス整数のノルム(つまり、有理整数a,bを用いてa+biと表現されるガウス整数については、aの2乗+bの2乗)は、たとえば、N(α)N(β)=N(αβ)という特徴がある。
簡単な話で、(a^2+b^2)(c^2+d^2)=N((ac-bd)+(ad+bc)i)=(ac-bd)^2+(ad+bc)^2=a^2c^2+b^2d^2+a^2d^2+b^2c^2と、確かに成立している(二乗を^で示した)