先史時代
人類において、文字が発達して記録ができるようになった。当然、記録が無ければ歴史は良くわからない。
そこで、記録が出来るようになる以前を先史時代prehistoryと名付けることとした。
ところが、記録ができることだけに着目すれば、エジプトにおいては紀元前3000年頃に先史時代が終わったといえるし、その一方で、未開拓の地域では紀元後の1900年頃にようやく先史時代が終わったともいえる。
このように、先史時代という区切りは、どちらかというと地域的な区切りであり、考古学者にとっては都合が良いが、歴史を学ぶ上ではかえってややこしいものでもある。
石器時代の狩猟文化
人は猿から進化した。石を用いて狩猟することに気が付いた時代が、石器時代である。正確には、石をうまく加工する技術と知恵がつきはじめたのが石器時代である。具体的には、ホモハビリス(ホモサピエンスの近縁)が250万年ほど前に石器を使い始めたようである。
当然、このころは、何らかの情報伝達方法はあったと思われるが、明確な文字はなかったと考えるのが妥当であり、当然、明確な記録は存在していないため、先史時代と考えられる。
ところが、20万年ほど前に、人類の祖先であるホモサピエンスが登場した。ホモサピエンスは、7万年ほど前に、アフリカを出たと言われている。
このころにはすでに、音楽のような文化が存在したと言われており、3万年ほど前には、完全に「芸術」が存在したと言われる。有名なのがフランスのラスコーの壁画である。他、数の概念もすでに存在したと言われている。
ある意味で、「何か」を後世に伝えられる文明が存在したという点で、ここで先史時代が終わったと強引に解釈できるかもしれない。
しかし今のところ、あくまで「明確な意味を持つ歴史的な記録」が存在していることが条件であるから、発展していたエジプトにおいてすら、紀元前3000年になってようやく先史時代が終わったと認められる程度のようである。
遊牧民という言葉が有名であるが、自由気ままに狩猟して採集して、という小規模で平等な社会を形成していた地域も多かったようである。
しかし、地域によっては明確な首長構造、社会構造ができあがっていたところもすでにあったようである。
旧石器時代から中石器時代へ、そして新石器時代へ
20000年前から9000年前を特に中石器時代と呼ぶ。ただし、中石器時代特有の遺跡は数少なく、情報に乏しい事実もある。
この区分は主に、石器技術の向上をもとにしているが、背景として、第四氷河時代の終焉に伴い、特に今でいう北欧における食料状態の著しい向上も関係していると思われる。食料が豊かになると人類が発展しやすいのである。
さて、石器時代の終焉は新石器時代である。上記の豊かになってきた食糧から始まったのかは不明であるが、とうとう「農耕」を覚えたのであった。
農耕ができると、しばらくは単純な農耕社会、すなわち、自給自足のような社会も形成された。
しかし、いわゆる農奴といった制度や、明確な上下関係、社会、首長文化も形成された。
あわせて、動物の家畜化、村落の形成、戦争、大きな建築物(石)の形跡も見られるようになり、石器時代は終焉を迎えた。
なお、諸説あるが、紀元前10000頃のシュメールにおける農耕が最も古いと考えてよいかもしれない。このころは、縄文土器などに代表される土器が作られるようになったころである。土器は食物の貯蔵、調理、食器に用いられたため、食文化の発展に貢献した。
インド、南米、中国などにおいても独立して、次々に農耕文化が発展していったといわれている。
石器時代は、厳密には農耕文化の発展によって終わりを迎えたわけではない。あくまで、石器に、金属加工品がとってかわることで終わりを迎える。
なお通常は、この新石器時代は、アジア、アフリカ、ヨーロッパ(これらをまとめて旧世界だとか旧大陸といったりもするが)、において定義される。
また、諸説あるが、アメリカ大陸やオセアニアなどでは、これらの旧大陸とは文化の発展タイミングが異なる。これらの大陸については、金属加工技術が発展していなかった時期に対して、別途、新石器時代の呼称が定義されているようである。
すなわち、具体的に何年までが新石器時代かとはいえないようである。
青銅や鉄
シュメールにおいて紀元前5500年頃においては、すでに農耕文化の発展に伴い、階層社会が形成されていた。
また、このころ、ユーラシア大陸において、銅や青銅文化が発展していた。
そして紀元前3000年頃の地中海沿岸において、とうとう製鉄技術が発展した。これにより、農耕も発展した。
アメリカ大陸においても金属器は発展したものの、紀元前1000年ころまで待たなければならなかった。これは単に、大陸続きであるかどうかによる発展の遅れだろう。
そして文明は、川を中心に栄えたのであった。
青銅器時代と楔形文字による先史時代の終焉
そもそも新石器時代から青銅器時代の間には過渡期が存在することと、新石器時代は必ずしも青銅器時代に遷移した地域ばかりではないことに注意したい。
紀元前3000年ころは青銅や鉄が生産されたと同時に、粘土板に記号を刻む、いわゆる「記録」がなされはじめた。
このころ発明されたのが楔形文字である。紀元前3400年ころのメソポタミア文明におけるものである。これにより、先史時代は終焉を告げる。ただし、地域ごとに先史時代を定義するのであれば、まだまだ先史時代の地域は存在していた。