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一意分解整域と主イデアル整域

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一意分解整域

一意分解整域とは、素元分解環ともいう。

各元が素元の積に「一意的」に書くことができるような可換環のことである。

なお、一意分解整域以降のさらに条件の厳しい環については、素元は既約元と一致する。

整域Rの零元でも単元でもない元xが、

x=p1p2…pnなどと、既約元の積として書けて、かつ一意であれば、Rは一意分解環である、という。一意かどうかの証明は、例えばx=q1q2…qnと書けたとして、それが、pとqについて適当な全単射の並び替えを行うと、piとqiとが全ての組で「同伴」となれば良い。

例えば、体は、環のうち、非零元全体が乗法の下で可換群をなすものである。これは、かなり厳しいルールである。体は、零元でない元が単元となっているため、自明に、一意分解環である。

主イデアル整域

主イデアル整域とは、任意のイデアルが単項イデアルであるような整域である。

単項イデアル

単項イデアルとは、環Rの単一の元aにより生成されたRのイデアルIである。イデアルとは、環の特別な部分集合であって、その部分集合に属する任意の元の和と差が、再びイデアルの元になっているものをいう。わかりやすくいえば、整数環における、偶数イデアルなど。

ゆえに、例えば整数環Zについて、偶数イデアルにしても、3の倍数イデアルにしても、各々、単一の元2と3によって生成された単項イデアルなので、整数環Zは主イデアル整域である。

単項イデアルではないイデアル

なお、イデアルの復習であるが、環Aの部分集合Iがイデアルであるためには、

1:イデアルに0を含み、

2:イデアルの元xと環Aの元aについて、axもxaもイデアルの元になる。

3:xとyがイデアルの元であれば、その和も差もイデアルの元になる。

簡単に、整数環Zに対して、2の倍数の集合はイデアルになっている。

また、整数係数のXの多項式の集合Z[X]について、加法と乗法について、環の定義を満たすので、これは「多項式環」というものである。さらに、多項式環Z[X]のうち、例えば、X^1を因数に持つ多項式の集合は、やはりイデアルになっている。もちろん、X^2を因数に持つ多項式の集合も、イデアルになっている。

整数係数の多項式環Zのイデアル(2,X)を考える。

このイデアル(2,X)という表現であるが、

まず、多項式環ZのイデアルZ(2)は、整数係数の2の多項式の集合を表している。たとえば、a*2^0+b*2^1+c*2^2+…など。もちろん、その結果は偶数のことであるが、これも2についての多項式環である。

さて、環ZのイデアルZ(X)も同様で、整数係数のXの多項式の集合であって、おなじくa*x^0+b*x^1+c*x^2+…となる。Xについての多項式環になっている。a*2^0+b*2^1+c*2^2+…a*x^0+b*x^1+c*x^2+…

ここで、実は、環Aについての2つのイデアルI,Jがあった場合、その元の和の集合は、イデアルである。すなわち、Iの元xとJの元yがあって、z=x+yの集合で作られるKは環Aについてのイデアルである。Kについて、

1:「イデアルに0を含み」、は当然成立する。

2:「イデアルの元zと環Aの元aについて、azもzaもイデアルの元になる」、も成立する。まず、イデアルIの元xに環Aの元aを掛けたaxが、やはりイデアルIの元である、というのは、イデアルの定義である。ゆえに、イデアルIに元axが含まれること、イデアルJに元ayが含まれることは自明である。ゆえに、イデアルIの元axとイデアルJの元ayをとってくれば、その和であるax+ay=azは、イデアルIの元とイデアルJの元の和がイデアルKの元であるという約束から自明に、イデアルKの元である。

3:「Kの元α=x1+y1とβ=x2+y2がイデアルの元であれば、その和も差もイデアルの元になる。」も成り立つ。和は(x1+x2)+(y1+y2)であるから、もちろん、イデアルIの2つの元x1とx2の和はイデアルIの元になるという定義から、(x1+x2)はイデアルIの元、(y1+y2)はイデアルJの元である。ということは、(x1+x2)+(y1+y2)は、イデアルIの元とイデアルJの元の和がイデアルKの元であるという約束から自明に、イデアルKの元になる。差についても同様である。

ということで、2つのイデアルの元の和の集合は、やはりイデアルになっている。

さて、多項式環Zのイデアル(2,X)とは、実は、2Z[X]+XZ[X]と表現できる。つまり、2によってZから生成されたイデアルと、XによってZから生成されたイデアルの和なのである。

ここで、直感的なイメージであるが、整数環Zの元が例えば、…,-2,-1,0,1,2,3,4,5…とあって、整数環Zの元2から生成されたイデアルに含まれる元とは、2Zとして表現(もとが多項式環Z[X]であれば、2Z[X]という表現になる)して、その内容はすべてを2倍すれば-4,-2,0,2,4,6,8,10…となる。元の個数は、すべて2倍したのだから変わらないような気もするが、整数は無限にあると考えれば、元が偶数に限定された分、元の個数は半分になったと考えて良さそうである。

話を戻すが、従って、2Z[X]+XZ[X]というのは、多項式環Z[X]に含まれる元をすべて2倍したものと、すべてX倍したものの和、と考えるよりは、Z[X]のうち、2Z'[X]の形で表現できる元(すなわち偶数)と、XZ”[X]の形で表現できる元(すなわちXを因数にもつ多項式)の和、と考えたほうがしっくりくる。

さて、このZ[X]という表記は、環のいずれかの元、という意味なので、もちろん、2Z[X]+XZ[X]≠(2+X)Z[X]である、すなわち、任意のZ[X]の元に(2+X)を掛けるわけではなく、任意のZ[X]の元に2を掛けたものと、別の(たまたま同じでもよいが)任意のZ[X]の元にXを掛けたものの和、という意味である(意外とこういうところでわからなくなる)。f(X)およびg(X)という整数係数のXの多項式をZ[X]の元として、2Z[X]+XZ[X]=2f(X)+Xg(X)という意味が正しい(表記上、Z[X]≠Z(X)である。Z(X)と書くと関数のようだが、しかしこのZは環Zであるから、Z[X]という記載を関数的なものと勘違いしてはならない。)。

ということで、多項式環Z[X]の2つの元2,Xから生成されるイデアルI,Jの元の和の集合は、やはりイデアルであることが証明されており、Z[X]のイデアル(2,X)と表記する。そして、具体的な値は、Xの関数を用いて、2f(X)+Xg(X)と記載できる。

ここまできてようやく、多項式環Z[X]のイデアル(2,X)すなわち2f(X)+Xg(X)が、単項イデアルではないことを示せる。

イデアル(2,X)がもし単項イデアルだとすれば、

単項イデアルの定義から、多項式環Z[X]の何らかの(あらゆる、ではない)単一の元f(X)(もちろん定数項も含むので、例えば、0とか1とかでも良いし、X^2とかでもよいがしかし、元によって、適当なf(X)を選ぶわけではなく、確固たる、何らかの単一の元f(X)が存在しなければならない。ここでつまずくこともある。)が存在して、f(X)Z[X]の形で、すなわち、Z[X]の元g(X)を用いて、f(X)g(X)の形で、イデアル(2,X)のすべての元が表現できるはずである。なお、g(X)は適当なものを選んでやればよい

イデアル(2,X)のすべての元は、2A(X)+XB(X)の形である。A(X)もB(X)の多項式環Zの元である。

2A(X)+XB(X)=f(X)g(X)となる。

多項式環Zは、すべて整数係数である。

もしf(X)が0だと、もちろん、2A(X)+XB(X)が0以外のときに等式が成立しない。また、f(X)が定数項以外であれば、2A(X)+XB(X)が例えば2のときに成立しない。従ってf(X)は0以外の整数である。

例えば、f(X)が2であれば、右辺は2g(X)となって、左辺が2を因数としてもたなければ成立しなくなるし、そういうことも当然おこりうる。f(X)が、-2,-3でも、3,4…でも同様に、成立しないケースが必ず存在する。

従って、結局f(X)の候補は1か-1である。

f(X)=1のとき、2A(X)+XB(X)=g(X)の形で常に表現できれば問題ない。ところが、2A(X)=g(X)-XB(X)において、右辺が2を因数としてもたないケースが当然存在する。

f(X)=-1のときも同様である。

結局、このようなf(X)は存在しない。

ゆえに、多項式環Z[X]のイデアル(2,X)は単項イデアルではない。